17栄養 植物にとっての銅
17種類の栄養素から銅(Cu)についてご紹介します。
はじめに
植物の成長と発育にはさまざまな栄養素が必要ですが、その中でも金属物質である銅は非常に重要な要素の一つです。
植物にとって銅は微量元素として知られ、携帯電話などの電化製品にも使用されているので植物に縁のない人でも手にしたことがあるかもしれません。
近年では銅の抗菌作用を利用した衛生商品や調理器具などが注目されて使用の幅が広がっています。
※硬貨の10円玉は純粋な銅ではなく合金です。
この記事では、植物における銅の重要性、役割、不足や過剰が引き起こす影響について少しだけ深堀してみます。
銅の植物への重要性
- 光合成と光感受性
葉緑体内のクロロフィル分子にも銅が含まれており、これが光合成において太陽光を捉え、光エネルギーを化学エネルギーに変換する過程で重要な役割を果たします。光合成は植物が成長し、エネルギーを生産するために不可欠なプロセスです。
また、日本植物生理学会による解説では”銅(Cu)は植物の生存にとって必須の元素で、光合成電子伝達に働くプラストシアニン、呼吸酵素シトクロムcオキシダーゼ、活性酸素を消去するスーパーオキシドディスムターゼなどのタンパク質の機能に必要です。”*1
つまり銅は光合成のために必須栄養素であることがわかります。 - 根の成長と発達
銅は根の成長と発達にも影響を与えます。特に銅はアクシンと呼ばれる細胞骨格の形成に関与し、これによって植物の根の伸長や形態の制御に寄与します。
また、植物愛好家の中には「錆びた釘」を肥料として使用している例があります。
銅不足と銅過剰の影響
- 銅不足
生育停滞: 植物の成長を妨げ、生育停滞の影響から開花、実付きが悪くなります。
光合成の低下: 銅が不足すると光合成の効率が低下し、光合成生成物の量が減少します。
変色や萎縮 :銅不足により植物の緑色が薄くなったり、萎れたりすることがあります。
また、”日本ではCu欠 乏はあまり知られていなかったが近年,畑地では各地に発見されるようになった。
Cuが欠乏すると果樹類では芽の発生, 展開が阻害されてロゼ ット状になる。
麦類ではCuが欠乏すると新葉は水引きのように細くなって伸長,展開が阻止される。
穂も同様に伸び悩み,穂が完全に止葉から抽出しない。”*2などの症状があります。 - 銅過剰
銅過剰は生育を阻害し、植物が正常に栄養を吸収できなくなります。
特に銅の過剰については”作物の鉄吸収が低下し、鉄欠乏症状-銅誘導鉄クロロシス-と
なって現れるといわれている。また、銅は、根-特に生長点付近や中心柱の近傍-に
タンパク質と結合した形で蓄積し、根の伸長を顕著に阻害し、養水分-とくに鉄-の
吸収を低下させるといわれ、銅の害作用は生育初期に著しいといわれている。”*3
まとめ
銅は微量栄養素ではありますが、植物の健康な成長に不可欠な要素です。
適切な銅の供給があることで、植物は光合成や代謝プロセスを正常に行い、強健で健康な状態を維持できます。
一方で、銅不足や過剰は植物に悪影響を及ぼすため、適切な管理が求められますが
”植物に銅が足りていない状態だということを見つけるのは至難の技です。なぜなら亜鉛が少なかったり、モリブデンが多かったり、その他の微量栄養素の不足、過剰によっても同じような症状が出るからです。”4 対策としては”土壌に銅を添加するという方法があります。イギリスのロンドン大学において行われた研究では、銅を多く含む肥料を与えたところ、大麦の収穫高が28.5%増加したことを明らかにしています。この研究から、ごく微量の銅の存在が穀粒の収穫に大きな影響を与えることがわかりました。”4
17種類の栄養素から銅についてのご紹介でした。
#必須栄養素 #銅 #抗菌
*1日本植物生理学会-ホンモンジゴケの銅濃度について
*2東北大学農学部-植物栄養と微量要素(藤原 彰夫)
*3独立行政法人農業環境技術研究所-植物の金属元素含量に関するデータ集
*4一般社団法人日本銅センター-植物にも必要な銅